北アルプス縦断 上高地~槍ヶ岳~親不知(前半2016年7月21日~25日 上高地~新越山荘まで)
- 篠原
- 2016年7月21日
- 読了時間: 11分
篠原単独
1日目 |上高地~槍ヶ岳山荘

いつもは、横尾大橋を渡り穂高岳に向かう道を、槍ヶ岳の方に初めて歩いていくと、登山道の左側に梓川が夏のコバルトブルーの輝きを湛えて美しく流れている。上高地の透き通るような梓川もきれいであるが、ここの渓流のように変化のある梓も、爽やかで清々しい。
その道を心地よくしばらく歩き、槍沢ロッジで休憩する。ここまでは、上高地からのほぼ平坦な散策道のようなところで、あまり疲れずに進める。

その先には、開放的で壮大なカール地形である槍沢が広がっている。
北アルプスの山の頂には、ここまで顕著な沢状の地形を登り詰めたことはなかったため、その雄大さ、明るさ、高山植物の彩り、地形の豊かさに驚かされる。北アルプスの名峰槍ヶ岳の裏庭のような、隠れ家のような、そしてこれからの縦走を予感させるようなところである。

雪渓も残っていて、そこに雪解け水が涼しげに流れていく。
日射しは、とても強く、槍沢も高度が上がるにつれて、傾斜も急になってくる。槍沢の登りは、一気に高度を稼いでいくため、なかなか厳しい、とは聞いていたが、夜行バスで上高地にきた寝不足もあいまって、登る速度は落ちていく。
30分歩いては、10分程休憩しながら、少しずつ登っていく。休んでいるときに、沢渡から上高地までバスで来た方に話しかけられた。歩き始めた時間は、私の方が相当早いのに、追いつかれてしまったので、やはり進むスピードが遅いなと思う。
「目的地は、日本海の親不知までの縦走です。」と、山行計画について話すと、「ここから日本海までですか!」と驚かれた。
寝不足のせいもあるとはいえ、1日目から少しふらふら気味で、果たしてこれから北アルプスを縦断して、日本海までの長い旅路を歩きとおすことなんてはできるのかな、と不安を抱く。
一昨年と昨年の夏休みは、北海道の旭川・美瑛・大雪山系に旅行に出かけた。今夏はどこに行こうかなと悩んでいたところ、ふと、上高地から日本海まで北アルプスを縦断してみようというアイデアが浮かんだ。
いろいろと検討してみたが、夏の北アルプスを颯爽と歩けたら、楽しく思い出に残る縦走になるだろうと思い、このルートを歩くことに決めた。
北アルプスの縦断については、焼岳から親不知までともいわるが、仕事を休める日程的に、私の実力ではそのコースは時間的に無理のため、上高地~槍ヶ岳~親不知のルートを設定することにした。また、本来であれば、テント泊で行きたいところだけれども、テント装備では、よくても白馬辺りで下山するようなスケジュールになってしまいそうなので、お金はかかってしまうが、全て小屋泊にすることにした。
いずれにしても、相当なロングルートである。最近は、それほど長いルートに行っていないため、最後まで歩けるか相当不安な旅立ちであった。

疲れつつあったけれども、少しずつ登っていくと、突如として、槍ヶ岳が天を鋭く突きさした。槍沢からの槍の穂先は、こんなにも大きく、空の要塞のように険しく見えることに驚かされた。
なんとか槍ヶ岳山荘に着いたが、ひどく眠かったので、槍の穂先には登らず、しばらく昼寝をして過ごした。
2日目 |槍ヶ岳山荘~双六小屋~三俣山荘~鷲羽岳~水晶小屋~真砂岳~野口五郎岳~野口五郎小屋

カメラを持って小屋の外に出ると、暗紫色に染められた一面の雲海が広がり、そこから山々の頂が空島のように浮かんでいる。

日は、槍の東側から昇ってきて、山肌を橙色に輝かせた。
食事をとると、今日の行程も長いので、槍の穂先はパスして、6時に西鎌尾根へと歩き始める。

西鎌尾根には、雲海となった絹のような雲がかかっている。
千丈乗越への下りは急であったが、バランスをとりながらテンポよく通過する。


西鎌尾根についたガスのせいで、視界がなくなることもあったけれど、途中からは、そのガスも晴れていき、穏やかな西鎌尾根の景観を楽しむことができた。

硫黄乗越で一休みし、双六小屋までは、槍ヶ岳山荘から2時間半ほどで到着した。


双六小屋からは、双六岳には登らず、巻道をとおり、三俣蓮華に向かう。ここは、カール地形のようで、高山植物も美しく広がり、地形の変化もあり、写真を何枚も撮ってしまった。時間があれば、いつまでもその景色と植物を満喫したいような素敵な場所であった。
三俣山荘で休憩する。この先は、野口五郎小屋までは水場がないため、ここで水を汲んでおく。

鷲羽岳は、ガレガレした急坂であったものの、自分のペースで登ることができ、三俣山荘から1時間で山頂に。
途中からガスが出てきてしまい、あまり景色は楽しめなかった。
ワリモ岳も通過し、水晶小屋に13時10分頃に着いた。この時点でけっこう疲れてしまい、予定地の野口五郎小屋まで行くか迷ったものの、やはりそこまでは進んでおかないと今後の日程が厳しいので、先に進むことにする。
地図に「足元注意」と書いてあるとおり、少し嫌なところで、ガスも濃くなってきた。
途中2回休憩しながらも、15時20分に野口五郎岳の頂上に立てた。
この日は、野口五郎小屋に宿泊。
3日目 |野口五郎小屋~三ッ岳~烏帽子岳~南沢岳~不動岳~船窪岳第二ピーク~船窪岳~船窪小屋

野口五郎岳の山肌がうっすらと薔薇色に染まっていて、清々しい朝であった。
6時頃に出発した。

烏帽子岳への稜線は、穏やかでゆったりとしていて、快晴の縦走を楽しむことができた。

ついついペースを上げすぎてしまい、ルートタイムの半分ほどで烏帽子小屋に到着した。

小屋の前は、高山植物が植えられていて、とてもきれい。
小屋の水は、とても冷たくおいしかった。

烏帽子岳は、見事にとんがっていて、おもしろそうであったけれど、今回は時間がなさそうなので、パスした。今度来るときは、ぜひ登ってみたい。


前烏帽子から南沢岳のコルまでの湿地帯は、ひっそりとした庭園のような趣で、心を落ち着かせてくれる。
しかし、ここから船窪岳までは、道の難易度が高くなる。今回の縦走の前半の核心部は、ここの行程であった。そして、体力と気力を相当に消耗することになる。
南沢岳の登りは、ザレた花崗岩の急坂であり、道も分かりにくい。足場も滑りそうであるため、注意を要する。少し迷いながらも、ザレ場を通過すると、低木地帯を超えて稜線に出た。

南沢岳の稜線は、心を澄み渡らせる青空に架ける花崗岩の白い道となっており、夏山の爽やかさと美しさを象徴している。

南沢岳の頂上で休憩して、不動岳に向かう。南沢乗越までは、相当にザレた場所が続き、滑ったら何百メートルも落ちてしまいそうなところもあり、気を抜くことはできない。

不動岳の東側は、完全に崩壊していて、植物もなく、厳しい崖となっている。
南沢乗越から不動岳への登りは、樹林帯がメインである。ここから、不動岳までの間に、何人かの登山者とすれ違った。このコースは、玄人向けのようなところであるけれども、人は少なめではあるが、縦走している登山者はある程度いるようだ。
不動岳の頂で休み、船窪岳に向かう。下りに鎖場があるものの、難易度は低い。比較的に歩きやすい道を下りていく。船窪岳は遠くに見えて、なかなかたどり着けなそうだ。
登りは、難しいわけではないけれども、やはりザレた場所が続いているので、注意して登る。今日は、朝にスピードを出しすぎたせいか、連日快晴が続き暑かったせいか、頭が痛くなり、登るのがつらく、こまめに休憩しながら歩いていく。

船窪第2ピークには、なんとかたどり着いた。この頂は、展望がない。この時点でかなり疲れ切っていたので、15分くらい休む。ここから船窪岳までは、「ハシゴ、ワイヤー連続」とあり、どれほどの難易度であるか気になる。

上部は樹林帯であったけれど、途中で相当のザレ場のトラバースや急な下りがあり、ザイルは設置されているものの、緊張を強いられる。

また、コルは、道が狭く切れ落ちていて、慎重に行動する。

危険個所はいくつかあったが、船窪岳直下のナイフリッジが最も難しかった。ザイルは設けられているものの、狭いところでは、足場が横20cmくらいで、両側が切れ落ちていて、しかもザレザレである。気を引き締めて慎重に渡り、ハシゴを登り、船窪岳の頂に。

船窪岳の頂も展望はない。
船窪岳から七倉岳までは、難易度が下がり、歩きやすい。それでも、疲労がひどく、登りはきつい。
途中で、今日船窪小屋に泊まる方で、水を汲みに行っていた人と会い、一緒に船窪小屋まで歩く。一人で歩いているときは、きつかった呼吸も、適当に会話しながら歩いていると、だいぶ楽になった。呼吸方法は、気をつけているつもりでも、浅くなっていたようである。

気づくと、船窪小屋が見えて、今日はもう歩かなくていいんだ、と安心する。
船窪小屋に荷物を置き、少し休憩してから、水場に水を汲みにいく。水場は、小屋から10分程下りたテント場のところにある。しかし、予想以上に、とてもスリリングなところで、ザレ場のトラバースがあり、ザイルが設置されていた。夜は、水場に行かないようにという看板があったが、たしかに夜に行くと滑落しかねない。

船窪小屋は、ランプの宿ともいわれており、リピーターが多い、人気の山小屋である。そして、食事もとてもおいしいことで有名である。品数も多く、おしゃれに盛り付けられている。上高地味噌など、北アルプスの食材がふんだんに使われている。山小屋で、こんなにおいしいものを食べることができるとは考えていなかったので、味わい深く頂いた。
夕食から1時間後の19時から、お茶会が開かれた。宿泊客が自己紹介をしたり、船窪小屋の歴史のDVDの上映を見たりした。
小屋番の方と話したところ、船窪山直下のナイフリッジは、昔はあんなものではなく、自然の壁もあり、渡りやすかったとのこと。年々崩壊が進み、道が険しくなっているようである。それでも、小屋番の方が、道を叩いて、少しでも足場を広げてくれているということで、頭が下がる。
本日の行動は、体力的にも精神的にもきつく、北アルプス縦断なんて無理なんじゃないのかなとも思ったけれども、船窪小屋がとても快適で疲れをとることができた。
4日目 |船窪小屋~蓮華岳~針ノ木岳~新越山荘

その日の夜明けの景色は美しかった。七倉ダムの方向には、暗紫色に染められた雲海が広がり、静かで壮大な一日の始まりを告げようとしている。

槍ヶ岳も望むことができ、あそこから縦走してきたんだなと感動する。北アルプスの峰々も、色彩を徐々に変えながら輝いて、流麗な音楽の中にいるように、この輝きにいつまでも包まれていたいと思う。
小屋のおいしい朝食を頂き、またコーヒーをサービスしてもらったりして、居心地もよくて、長居してしまい、出発は6時10分。
船窪小屋の鐘に送られて、今日の縦走が始まる。

七倉岳の頂は、船窪小屋からすぐであった。朝は、天気もよく、気持ちの良い縦走路が続いている。
ただし、七倉岳から北葛岳までは、「ヤセ尾根、ワイヤーあり」と書いてあり、それほど難しい場所はないが、数カ所気をつけた方がよいところがあった。

北葛乗越で休憩する。蓮華岳の下りは、「蓮華の大下り」ともいわれているところであり、ここを登り返すのは、けっこう疲れそうである。北葛山から見た蓮華岳は、確かにそれなりの登りに見えた。体力を消耗しないように、じっくりと歩いていくことを心がける。

登り出しは、急な岩場の連続である。ただし、鎖はしっかりとしている。この岩場を通過すると、難所はない。

木はなく、岩々した山であるけれども、コマクサが群生していて、急登の苦しさを忘れさせてくれる。
蓮華岳の山頂に9時30分に着いた。

頂の辺りには、ライチョウの親子が何羽か散策していた。
針ノ木峠へは、下りのため、スムーズに進むことができた。そこで、山頂で会った2人組のうちの一人が追いついてきた。なんでも、早朝に扇沢から針ノ木雪渓を登ってきて、針ノ木峠にザックを置き、蓮華岳に登り、これから種池山荘~柏原新道を下るとのこと。ルートタイムの半分くらいのペースで歩く計算である。私も、針ノ木峠までは、下りであり、スムーズに下りていくことができたため、その方に「種池山荘まで一緒に歩けそうですね」と言われた。

しかし、針ノ木峠から針ノ木岳への登りでは、その方は、「ゆっくり歩いていきます」と言っていたものの、ルートタイムの半分の30分で登ってしまい、全く追いつけなかった。私もルートタイムの3分の2の40分で登りはしたが、やはりスピードが違いすぎると感じた。針ノ木岳の頂上で話を聞いたとこと、基本的に毎日、近所の山?丘?を走っているとのこと。相当トレーニングしているようで、歩く速さが違うので、ここで別れることにした。
針ノ木岳からスバリ岳までは簡単な道である。11時50分にスバリ岳に到着。
しかし、スバリ岳の頂からコルまでの下りは、急で、しかもザレている。特に一か所ザレザレのトラバースがあり、慎重に渡る必要がある。
そのトラバースを抜けると、赤沢岳までは、長い尾根歩き。

赤沢岳の直下には、危険個所を示す看板があった。気を付けて登れば、特に難しくはない。

赤沢岳に13時10分に着いた。
ここで、雨が降ってきたため、レインウェアを着る。
雨が強くなり、ガスも濃くなる中、鳴沢岳に向かう。尾根は分かりやすい。14時に鳴沢岳に到着。ここから新越山荘までの下りは、雨に濡れて滑りやすいところもあり、注意しながら進む。

14時30分に新越山荘に着いた。本来の今日の目的地は、種池山荘であるが、今からそこまで歩くと16時くらいになってしまうし、それなりに疲れていたので、新越山荘に泊まることにした。
<北アルプス縦断 上高地~槍ヶ岳~親不知(後半2016年7月26日~30日 新越山荘~親不知まで)>に続く。
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